◆信仰のうたとして-from their faith in Christ




Spirituals/霊歌はRing Shoutから発展していった唄だと考えられていますが、その歌詞のテーマは聖書、特に旧約聖書(イエス・キリストが生まれる前から伝わるユダヤ民族の歴史と教えを集めた聖書。預言書のなかでキリスト(=救世主)の出現を約束している。)の物語から取られているものが多く見られます。その理由としては、黒人奴隷達が聖書にふれていく中で、神の民として生まれ、エジプトで奴隷として捕囚され、のちにモーゼによって解放されるという旧約聖書の中のユダヤ民族の歴史と自分達の歴史の間に、強い親近感を持ったことが大きな理由だと言われています。奴隷として捕らえられていても、解放されるんだという希望を旧約聖書のストーリーの中にはっきりと見たのでしょう。また物語をヴィヴィッドに歌詞にすることで唄にダイナミズムが生まれたということもあったでしょう。旧約聖書のストーリーのイメージと黒人奴隷達の希望との相関性がはっきりと見える代表的なSpirituals/霊歌として、"Go Down, Moses"が挙げられます。歌詞は25番まであるので(すごい!でも短いんだけどね)、抜粋してここに記しておきます。




"Go Down, Moses"
Traditional Spiritual

1. When Israel was in Egypt's land, Let my people go,
Oppressed so hard they could not stand, Let my people go,

2. Thus, saith the Lord, bold Moses said, Let my people go,
If not I'll smite your first-born dead, Let my people go,
Go Down, Moses, 'Way down in Egypt's land,
Tell old Pharoah, Let my people go.

(中略)

17. Oh, let us all from bondage flee, Let my people go,
And let us all in Christ be free, Let my people go,

(中略)

25. I do believe without a doubt, Let my people go,
That a Christian has a right to shout, Let my people go,
Go Down, Moses, 'Way down in Egypt's land,
Tell old Pharoah, Let my people go.



1. イスラエルの民がエジプトの地で奴隷とされている。私の民に自由を!
抑圧は激しくもう彼らは耐えられない。私の民に自由を!

2. 大胆なモーゼは神はこう言われたと言う!「私の民に自由を!」
さもなければ、私はお前達を滅ぼす。私の民に自由を!
行け、モーゼよ。エジプトの地まで。
そしてパロに伝えよ「私の民に自由を!」と。

17. ああ、我々みんなを囚われの身から解放させよ。私の民に自由を!
そしてキリストを信じる信仰において我々みんなに自由を。私の民に自由を!

25. 私は確信をもって信じている。私の民に自由を!
キリストを信じるものには叫ぶ権利があることを。私の民に自由を!
行け、モーゼよ。エジプトの地まで。
そしてパロに伝えよ「私の民に自由を!」と。
(私訳)

【通常、聖書(the Bible) と言えば、旧約聖書 (the Old Testament)と新約聖書(the New Testament/イエス・キリストの生涯、教え、キリストを通してなされた、神のあたらしい契約が記されている)をあわせたものを言います。】



このSpiritualでは、イスラエル(ここでは神が選ばれた民、ヤコブの子孫の意)の民がモーゼに導かれ、紅海を渡ってエジプトを脱出する旧約聖書の中でもおそらくもっとも有名なシーンが描かれています(海が割れるという場面です)。彼らは初めはモーゼに、のちにヨシュアによって導かれ、荒野を通って約束の地カナンまでたどり着きます。神に選ばれた民として、イスラエルの民はパロ(古代エジプトの支配者の称号/ファラオといえばわかるかな?)の圧制という厳しい試練を課せられたが、のちに捕囚から解放されるという歴史と、イエス・キリストの十字架上の死を通して人は罪をあがなわれ、魂が救われ、本当の自由を得るという信仰と希望とが、唄が進むにつれて表現されていきます。

"Go Down, Moses"の作者は、日常生活において現実的な切望である白人奴隷主からの解放と、信仰による魂の救いという精神的な解放の双方を強く希求し、この唄を作ったことがはっきりとわかります。また、Underground Railroad /地下鉄道(合衆国北部やカナダへ黒人奴隷が逃亡するのを援助した秘密組織)*1の代表的指導者であった黒人女性ハリエット・タブマン(←)は逃亡奴隷を集めるためにこの唄を使ったと伝えられています。Tubmanまたタブマンは、逃亡奴隷達に奴隷主達が放った彼らを追跡してくる犬から逃れられるように"Wade in the Water"(川を歩いて渡れという意味) というSpiritualを使って、川を渡ってにおいを消しながら逃亡するようにと伝えたとも言われています。Paseengers




右側にあるのは、ハリエット・タブマン(一番左)と彼女が逃亡を援助した元奴隷達の写真です。→



南部州の町から北部州やカナダの町へ(つまり地図の下の方の点から上の点へ)奴隷達は逃亡しました。白い線がUnderground Railroadによって導かれた経路です。

Map



*1/初めは、衣食を与えて北へ行く道を教える程度でしたが、逃亡奴隷の中に女性や子供が増えてくると、馬車やボートに乗せ次の場所まで注意深く護送するようになったと言われています。また逃亡奴隷用の衣服を作る裁縫グループも生まれ、自警団を作って逃亡奴隷の護送も行いました。彼らが泊まったり、身を隠したりする場所は”駅”、案内人は”車掌”と呼ばれていました。このようなUnderground Railroadの援助人として南部で掴まれば、確実にリンチを受けて殺されましたが、白人黒人とも命がけでこの仕事に携わった人々に支えられたといいます。著名な人には、自ら逃亡した後、南北戦争後まで一度も掴まらずに数多くの奴隷を逃亡させた”女モーゼ”ハリエット・タブマンのほかに、生涯に約2,700人の黒人を逃亡させた自由黒人カルヴィン・フェアバンクスが挙げられます。

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