◆フォークソング/民謡/民俗音楽として




Spirituals /黒人霊歌はアメリカ合衆国の歴史から生まれた、非常にユニークなフォークソング(民衆の歌)でもあります。多くの文化や社会において、フォークソングは主に世俗的な歌でありますが、Spirituals /黒人霊歌は聖なる歌であり、宗教的なフォークソングであります。またそれぞれの黒人霊歌は、個人の著者を特定することが困難であり、黒人霊歌は音楽的感覚、詩的感覚にすぐれた才能を持ったアフリカ系アメリカ人の総体に帰されるものでしょう。

*1黒人霊歌は、長い年月を経て、口承で広い地域に、世代を超えて伝えられてきました。アフリカにおいて、歴史や文化、宗教を主に口承で継承してきた彼らにとっては、奴隷として連れてこられた新たな地アメリカで同様の方法によってSpiritualsを伝えていったことも自然なことだといえるでしょう。

このフォークソング、Spirituals /黒人霊歌が1世紀以上に渡って、さまざまに枝分かれしていった結果、アメリカのポピュラーミュージック/宗教音楽の両者は新たな音楽的地平を切り開いていくことになったのでした。現在のゴスペル・ミュージックを聴いてみれば、その中にSpiritualsが根付いていることがはっきりとわかりますし、現在の合唱音楽のスタイルもSpiritualsの影響を大きく受けたものであることが分かります。blues、country、funk、rock、soul、rhythm and blues、jazz、rap、hiphop、そのすべてが、リズムパターンや豊かなハーモニー、アフリカ系アメリカ人特有の言語感覚(発音も含めた)、ヴォーカル・テクニック、パフォーマンス・スタイルなどといったSpiritualsの特質とフィーリングから発展したと言えます。現在のブラック・ミュージックに対してSpiritualsの果たした役割はもちろん計り知れないですし、アメリカンミュージック全体に対して与えた影響も決して小さいとは言えません。そして現在世界中で均質化しているポピュラーミュージックはアメリカンミュージックの存在なしでは考えられないことを思うと、Spirituals /黒人霊歌はキリスト教会にとってはもちろんのこと、人類全体にとってもひとつの貴重な精神的/音楽的遺産ではないでしょうか?



Lincoln*1/1862年に奴隷解放宣言(←を宣言なさったPresident Abraham Lincolnが左の写真)が公布され、奴隷制時代が終わると共に、フォークソングとしてのSpiritualsの発展にも変化が生まれました。

19世紀後半になると、hush harbor的なSpiritualsからコンサート・パフォーマンスとしてのSpiritualsの発展が始まりました。そのきっかけとして有名なのが、1866年に創設された黒人学校Fisk Schoolが財政困難解消のために考案したFisk jubilee Singersでした。
Fisk
それは、9人のFisk Schoolの男女混合の歌手達が(ひとり以外は元奴隷でした)各所を公演して回り、Spiritualsのレパートリーを歌い、寄付を集めるというものでした。Spiritualsを白人聴衆の前で歌うという試みは初めてであり、からかわれたり、正当な評価を得られないのではと恐れも大きかったようです。

1871年10月からツアーを初め、公演当初は大きな反応を得られませんでしたが、Ohio州のOberlin大学での公演で白人聴衆に高い評価を受け、その後も公演を続け、当時のグラント大統領に招かれホワイトハウスで歌ったりもして、その第1回Fisk jubilee Singersツアーの最後にはなんと$20,000もの寄付を集めたと伝えられています。1873年にはメンバーを増やし、ヨーロッパへ公演旅行に出て、数カ国では王室の前でもパフォーマンスをしたようです。(上の絵は1872年に描かれたFisk jubilee SingersのMembersで、Queen Victoriaへ贈呈されたものだそうです。)帰国までに$150,000を集め、FiskをAfrican Americanのために第一級の教育を提供する有数の大学として発展させる基礎を作りました。このFisk jubilee Singersの公演をきっかけに、Spiritualsの素晴らしさはアメリカ全土、そしてヨーロッパにも広まりました。

Hayesまたjubilee Singers(左のお方は、初期jubilee Singers Memberの一人でex-slaveでもあったMr. Roland Hayes。1937年の撮影。)は、コンサート・パフォーマンスとしてアレンジされたSpiritualsがアメリカ音楽のひとつの不変形であることを証明するきっかけともなりました。Spirituals /黒人霊歌は、Fisk jubilee Singersの公演をきっかけに、アレンジされた形でパフォーマンスされることが多くなっていきました。また第1次世界大戦以降、合唱/独唱形式のひとつの音楽の形としてアメリカ国内で好まれるものとなったようです。またSpiritualsの優秀なアレンジャーも出てきて、Hall JohnsonやEva Jessyeのような人々がアフリカ系アメリカ人コミュニィティの中でパフォーマーを育てる先駆者となっていきました。


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